宮大工の力

宮大工の力

日本の宮大工の技術の素晴らしさは、その「しなやかさ」にある。

釘を一本も使わないとか、鉋で平らに木材を仕上げるといった話は、確かに、わかりやすくて面白い。ただ、それらは あくまで細部の結果であって、本質的な特質は、もう少し別の所にある。しなやか、という言葉は、柔らかすぎず、硬すぎず、周りの状況に順応していくと意味がある。

では、しなやかな技術とは、具体的には、どういう事か。

まず、道具の話からしてみたい。彼らの道具と身体の関係は、とても相対的で繊細だ。鉋や鑿、鋸など全ての道具は身体の延長として、絶妙なバランスの中で機能する。身体の調子や能力に左右されずに機能出来る道具=機械をある一方向だとすると、彼らの道具は、その真逆だ。使い手によって、その結果が大きく左右されるし、その道具の作り方さえも、それを使う身体によって大きく異なる。その代わり、素晴らしい使い手と道具が組んだ時には、その技術は神業と言われるような領域にまで達して、誰でも使える道具とは比較にならない結果を生み出す。

建築も同じだ。

宮大工が扱う材料は、大木だ。木材は、伐採されてからも、その育った環境や種類の違いによって、異なる特性を内包していて、その力は部材が大きくなるほど、顕著になる。乾燥すると極端に曲がるもの、その乾燥の度合いによって強度を変化させるものなど、その性質は千差万別で、その背景には日本の多様で変化の激しい複雑な自然環境がある。

そうした部材を力だけで抑え込むのではなく、それぞれの部材の特性を見極めて、その変化がお互いに良い影響を与え合うように部材を組み上げていく。その知恵は、細部の仕上げから柱や梁の継手や仕口から架構そのものの組み方まで、徹底している。「材料を組む」という言葉は、こうした技術の本質をとても良く表している。

別の言い方をすると、部材自体を固定された物質というより、どちらかと言うと動きのある生き物として捉えている。そして変化の激しい日本の四季の中で、それらを見極め、最適な方法を見つけていくという事が、こうした技術に共通する一番深い部分であって、それは建築を超えて、自然や人間に対する「しなやかな」まなざしに繋がっている。

さかの

竣工: 2013
場所: 江東 東京

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